unknown(第二話)

Like
Like Love Haha Wow Sad Angry
5

chapt:5 ぼんぼり様

「質問に答えたら、見逃してやろう。」

「この村で一番の高い木はどれだ?」

「・・・村のはずれにあるノグリの木でございます。」

三郎は恐怖のあまりそのまま正直に答えた。すると、不思議なことにさっきまで聞こえていた息遣いがまるで聞こえなくなった。

そのまましばらくの時間が流れ、布団越しにも朝の日の光がなんとなく透けて見えるようになったので、三郎は恐る恐る布団から顔を出した。
すると、さっきまであんなに静かだった村は、小鳥の声と朝もやが夜明けの近さを教えていた。
三郎はふと我に帰ると、汗をぐっしょりとかいていた。あれは本当の出来事だったのだろうか。もう眠れそうにはなかったので、軽く汗を流そうかと浴室に向かった。廊下がギシギシと音を立てた。
その時、ふいに後ろから手を掴まれた。しっかりと、強く。振り返るとそこには口を大きく見開き、自分の倍ほどはある大きさのぼんぼり様がいた。窓越しに見た時よりも間近で見ると随分と大きかった。ぼんぼり様は目が合うとニタっと笑った。

ぼんぼり様は稼頭央の手をそっと掴むと、ふわりと浮き上がった。するすると廊下を抜けて、玄関をくぐった。稼頭央も同じようにぼんぼり様に連れて行かれたが、不思議なことに体が浮いているように滑るのだった。下を見てみると自分の足はぼんぼり様と同じようにするりとして、なくなっていた。やがて外に出ると、みるみる体は空高く上がって行きやがて村全体が見渡せるほどになった。自分はどこに連れて行かれるんだろう。もう稼頭央の声は誰にも届かないのだった。

chapt:6 信子

朝露に湿った草に足を滑らせながら、信子は長老の家に向けて走っていた。長老の家は長い坂道の上にあり、息が切れる。大体において最近私は食べ過ぎなのだ。いくら一昔前に比べて食料事情はいくばくかましになったとはいえ、私ほどダラダラ生活をしている人間はこの村にはいない。稼頭央の家の隣に住んでいた信子は、たまたまその現場を見てしまった。運よくあの化け物には見つからなかったが、長老の言っていた(ぼんぼり様を見て朝日を拝んだものはいない)という言い伝えが本当なら、私が1人目ということになる。やっと坂を登りきり、ドアを叩こうかと思ったがその前に信子は呼吸を落ち着かせる。今さら急いでも事態は何も好転しまい。それより酸欠で倒れそうだ。一呼吸ついた信子は長老の家のドアを叩いた。驚いたことに間髪入れずに中から長老が出てきた。長老は開口一番、「誰が持っていかれた?」と聞いてきた。いつもとは雰囲気が違う長老の様子に信子は少し驚いたが、今はそんなことを言っている場合ではない。「稼頭央です!白いおたまじゃくしみたいな・・」信子がそこまで言うと長老は急に信子の口を塞いだ。「みなまでいうでない、分かっている。稼頭央か・・信子、村はずれの寺までいくぞ」よく事態を飲み込めないまま、走っていく長老に続く。あの人こんなに走れたんだ・・。運動不足気味の信子には年老いたはずの長老の背中について行くのがやっとだった。

chapt:7 法然

普段はのんびりと過ごしている法然も、その日はなんとなく眠れなかった。昨晩の長老の意味深な話が気になったのもあるのかもしれない。外はすっかり明るくなり、朝露が日の光を浴びてゆっくりと空に帰ってゆく。鳥たちの話し声と草の匂いがこの古ぼけた寺にも朝の到来を知らせていた。普段から長老はよくこの寺に来ては、法然と一緒に寺の奥にある古い蔵の整理をしていた。この蔵が作られた正確な時代はわかってはいないが、そこにある【内容物】をみる限り少なくとも平安時代から立っているようだった。内容物といっても、まだ40代も半ばに差し掛かったばかりの法然にとっては訳がわからないものばかりだった。3年前のある日、法然がいつものように寺を掃除していると長老がやってきて「今日からこの蔵を借りる。ここに次の世代のこの村の長老に受け継がなくてはいけない事を、これから毎日書き記しに来る。それと、この蔵の中にある様々な品々にまつわる言い伝えもな。法然も手伝うといい。」それだけ一気に話してしまうと、長老は蔵の方に姿を消した。確かにあの蔵には訳のわからない物が沢山収納されていて、ついでに言うといつも薄暗くてカビ臭く、不気味だ。一度先代の和尚にこの蔵について聞いた事があったが、「そのうち知る時がくる」と言ってはぐらかされてしまった。それ以来、余計に気味が悪くなり足が遠くなっていた。長老が来なければもしかしたらずっとそのままっだったかもしれない。「まあ、仕方ないか」法然はまだ温もりがある布団との未練を断ち切るように、一言口に出して起き上がった。そろそろ一日を始めなければいけない。その時、急に上がり端の方から長老の声が聞こえた。とても急いでるようだった。

「法然、ふるしんの準備じゃ!ぼんぼり様が一人つれってった!」

ふるしん・・本当にふるしんを行う日が来るとは思わなかった。あれは迷信ではなかったのか。すると横にいた女が「ふるしんって、何ですか?」と聞いた。あの女は確か・・そう、信子だ。狭い集落なので、普段は寺に籠っている法然でも、なんとなくは知っている。信子はよほど急いできたのか汗をかいている。

ふるしん・・正確には「降神」と書いてふるしんだ。

蔵から出てきた、「民族伝承」・・・あの汚い本に載っていた儀式を長老には何度か教え込まれたが、法然はもちろん何の意味があるのか疑わない日はなかった。長老の気迫に押されていつも付き合わされていた。どうやら、こんな朝から顔を洗うことすらすっとばして降神をやる羽目になるとは法然は思いもしなかった。やれやれ、とんだ一日になりそうだ。法然と長老、そして信子それぞれの温度感の差が事の重大さを逆に浮き彫りにさせていた。 続く・・

Like
Like Love Haha Wow Sad Angry
5

コメント