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怪奇/ホラー記事
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chapt:1 御厨神社

「本当に見るのかよ」あきらがかったるそうに振り返りながらもう一度聞き返すと、「あたりまえでしょう、ここまで来たんだから。」横で目をキラキラさせながらあすかが言った。まさかこんな面倒なことになるとは思いもしなかった。ここまで来るまでに都心から電車で一時間半、さらにそこから一日に三本しか出ていないようなローカルなバスに揺られて、やっとこの村にやってきた。そもそもこんな所に急に来る羽目になったのは、あの「鞠」とかいう変な老婆のせいだ。鞠は変わり者として町内でも飛びきり有名で、鞠の住む家はいつもどこからか持ってきたゴミであふれていた。たびたび周囲と揉め事を起こしていた。その度に鞠は(ぼんぼり様が来る) というわけのわからないことを口走っていた。隣人ともめる鞠に対して何にでも好奇心旺盛なあすかが(ぼんぼり様って、何?)などと首を突っ込んだせいで、こうなってしまった。そこから鞠の長い話を聞かされ、現在に至るというわけだ。村はずれには古いお寺があったが、そこはすでに無人となって半分崩れていた。曲がってしまった柱と、古びた壁によってかろうじて原形をとどめているが、大きめの台風でも来ようものならひとたまりもなさそうに見えた。裏手に回ると本殿と比べると幾分ましな蔵のようなものが建っていた。扉はすでに穴だらけで、簡単に中に入ることが出来た。中に入ってみるとカビのようなにおいと、古い本などを収蔵しているような図書館のようなにおいが鼻をつく。そして一歩歩くごとに舞う埃が隙間から差し込む光をうけて幾何反射している。中には木製の扉が並んだ棚のようなものがあり、扉にはそれぞれ番号がふってあった。そして同じく木製の書庫のようなものがあり、そこの抽斗を開けると鞠が言った通り古いノートのようなものが入っていた。そのノートは明らかに現代とは違う昔の紙で出来ており、藁で編んだような紐で一つの冊子にされていた。さらによく見ると下に行くほどに紙の色や質感に違いがあり、何世代にもわたって書いては紙を足していった様な作りになっていた。この点も鞠の言ったとおりだ。しかしともかく早くこんな所から抜け出して家に帰りたい。大体今夜泊まる場所さえ決めていないし、そもそもこの村に宿泊施設自体があるかどうかも疑わしかった。とにかくさっさと用事を済ませて夕方に唯一来るであろう最終バスに乗ってしまおうと心に決めて、古ぼけたノートのようなもののページをめくった。一枚めくると「民族伝承」と、手書きの文字で書き記してある。Aは鞠に言われたとおりのページを開いた。そこには、【1938年御厨村 ぼんぼり様 おみおくり失敗】と書き記してあった。おみおくり?

chapt:2 村長

1938年頃の***村の様子。村の図書館所蔵。右側に大きなノグリの木が描かれている。(作者不明)

古い冊子には、なぜか物語調で文章が書かれていた。

**県の**山の中のさらに山奥に、樹齢が千年もある大きなノグリの木のある小さな集落があった。その小さな集落には御厨村という名前があり、人々がほんの少しだけ住んでいた。ある晩、その集落の長老が村人を集めて静かに話だした。

「村人の皆さん、今夜の月の色はこの村の北側の山の中の祠に古くから住んでいるぼんぼり様が現れる事を私に知らせています。あの月を見るのは60年ぶりです。前にぼんぼり様が来たのは私がまだ10歳くらいの頃だったと記憶しています。その時には朝になって何人も村人がいなくなって大変な騒ぎだったのを覚えています。」

普段は物静かで、俗に言う長老感?のないこの村の長は、ここのところ急にめっきりと老け込んだ。昔ははきはきとしていて、多くは語らないが村のためにいつも尽力していた。特に村で作られた作物に対しての農協との交渉などは、まわりをどきりとさせるような迫力があった。しかし昨年の大雪で腰を痛めてからは狭い村にもかかわらずめっきりと見かけなくなり、普段は家に籠って過ごしているようだった。このように村人を集めて話をする事はなかなかなく、その分普段は陽気な村人たちにもなんとなく緊張感が漂っていた。

「いいですか村人の皆さん、今から私が言うことをよく聞いてください。ぼんぼり様が現れたら、三つの約束を必ず守るのですよ。」

そういうと長老は、ぼんぼり様から村人を守る三つの約束を一つずつ話し始めました。

一つ、今夜は夜更かしをしない事。ぼんぼり様は寝ているものには興味がない

二つ、万が一ぼんぼり様が現れても、決してその姿を見ない事。古くからぼんぼり様を見て朝日を拝めたものは一人もいません

三つ、ぼんぼり様に話しかけられても決して返事をしない事。必ず寝たふりをし通して下さい。

長老は一度に話してしまうと、息をつくようにしばらく目を閉じて何かを考えているようだった。

部屋の中をぼんやりと照らすろうそくが、ふっと不自然に揺れた。

chapt:3 稼頭央

稼頭央がふと時計を見ると、時計の針はすでに10時をまわっていた。ぼんぼり様、か・・。長老の話を信じないわけではなかったが、今年齢50を数える稼頭央にとっては、にわかには信じがたい話だった。特に三つの約束の下りはB級映画にあるような定番の流れにすら思えた。とはいえ普段はあまり口数も少なく、いつも寄合所の縁側に座ってニコニコ村人を見ているだけの長老が、わざわざ皆を集めてうそを言うとは思えなかった。特に最近の長老はいつも何か焦っている様子で、遠い過去の村のしきたりや伝説のようなもの(山奥でもカラーテレビすら写せる今となってはありえないようなおとぎ話ばかりだが)や、村外れの山の一角に唯一あるお寺に預けてある不思議な品々の、要するに「いわく」のようなものをせっせと村の図書館にある日記のようなものに書き記しているようだった。

稼頭央は考えるのをやめて、家の横に流れる小さな小川に冷やしておいたビールを取りに行き、瓶のまま一息に半分ほど飲んだ。

囲炉裏で温めておいた味噌としめじを箸で混ぜ合わせながら少しずつつまんだ。昼間の野良仕事の疲れも手伝って、いつしか重たくて生暖かい泥に浸かったような、浅くどことなく不快な眠りに落ちていた。

chapt:4 悪い夢

9月ともなると、山奥の村は夜が更けるにつれ少しずつ秋の空気の中に冬の気配を感じるようになる。ふとした物音に三郎は目を覚ました。裏の戸口の方から、かたかたと戸口を揺さぶるような音が聞こえてくる。また鹿が食べ物を求めて歩いているのかとも思ったが、先ほどの長老の話を思い出し三郎はやり過ごすことにした。

布団の中で長老に言われた通り目を閉じていると、なにやらズルズルと引きずるような音と、木製の廊下がきしむ音がだんだんと近づいてくるのがわかった。やがて、三郎の部屋の前でその音が止まって寸刻ほど静かになった。

いつのまにか、先ほどまで騒がしかったタンボコオロギの声もしんと静まり返っている。

「ズズズズズゥ・・」聞きなれた三郎の部屋の木製の引き戸が開かれる音が聞こえ、そこから明らかに視線を感じる。三郎は固く目を閉じて、あたかも寝ているかのように寝息を立てた。

しんとした部屋の中に三郎の寝息だけが聞こえて、わざとらしい気もしたが今更やめる事もまたできずにひたすら寝たふりをしていた。夜の山間部の冷たい空気が大げさに何度も鼻腔を通って、くしゃみが出そうになったが必死に耐えた。

しばらくすると、その何かは部屋を出ていったようだった。廊下の奥に引きずるような音は消えていき、やがて玄関の扉の音が聞こえたからだ。そこで三郎の中にある思いが込み上げてきた。そう、どうしても「ぼんぼり様」とやらを見てみたくなったのだ。

三郎は息を殺しながらそっと部屋の窓から庭の方を見てみた。するとそこには、月明かりに照らされた白いオタマジャクシのようなものがふわふわと浮かんでいた。(なんだあれは・・。)

あっけにとられてしばらく凝視していると、ぼんぼり様がゆっくりとこちらに振り返った。振り返ったその顔にはぽっかりと大きく開いた口に、妙にあかあかしい唇のような部分があり、そして目や鼻といった器官は存在していないようだった。頭には数珠のようなものが不自然に乗っかっている。顔立ちのようなものがないためその表情は読み取ることはできないが、「自分と目が合っている状態」であることは確認ができた。

「ひっ・・!!」思わず声が漏れる。明らかにこの世のものではないその姿に三郎の心臓は張り裂けんばかりの鼓動を打ち付ける。

眼をそらしたいが体が硬直して動くことが出来ない。そのまま金縛りのような状態で、どうかぼんぼり様がこちらに気づいていませんようにと祈る。しかし、その願いもむなしくぼんぼり様はこちらに滑るように向かってきた。

慌てた稼頭央は長老の言葉を思い出し、布団にもぐりこんだ。確かぼんぼり様は寝ているものには興味がないはずだ。稼頭央が布団にもぐりこむのとほぼ同時に、ズズズズズゥ・・っと動きの悪い引き戸が開かれた。

「・・・起きているな。」ぼんぼり様の声が稼頭央のほぼ耳元できこえる。布団の外に顔を近づけているようで、はあ、はあ、とぼんぼり様の息遣いが聞こえてくる。

しばらくして、もう一度「・・・起きているな。」と、唸るような声でぼんぼり様がささやいた。

恐ろしくなった稼頭央は、ついに念仏を唱え始めた。すると、ぼんぼり様が不思議なことを口にしだした。続く

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